息子のミリタリーブログ

スリングライフルとかの自作飛び道具を作るブログです。数年前に有閑大学生から社畜にジョブチェンジして最近ルアーフィッシングにどハマリしたので性能低下中 ツイッター→https://twitter.com/model22ra1

自作スリングライフルの安全設計について

スリングライフルの安全設計と聞いて何を想像されるでしょうか

安全装置でしょうか

もちろん安全装置もスリングライフルの安全性を向上させる一要素ではありますが、それだけでは充分ではありません

 

完全に安全なスリングライフルとは「コッキングされていないスリングライフル」以外あり得ませんがそれでは発射できないので除外して、

「マズルを標的に向けてトリガーを引くまで決して弾が発射されない」ものです

つまり暴発を起こさないものであり、暴発も「機関部の設計不良や破損によって発生するもの」と「落下の衝撃や物が引っかかったり無意識に指を動かしてしまったりなど、意図せずトリガーが動いて発生するもの」の2種類あります

 

更に希少な事例を付け加えるならば、「自動給弾搭載機で弾が装填された後にフックに弾受けが掛かる前にゴムから手を離してしまった」場合でしょうか

普通はゴムが引ききれないなら手を離さずに戻すと思うので中々レアケースですが、人によっては離してしまう可能性もあります

 

暴発以外の危険性としては、コッキング中〜コッキング後に破損して怪我をしてしまうことが考えられます

ヨークがへし折れたり腹にストック当ててのコッキング中にストックが折れたりなんかがそれですね

 

これらの危険に対して私の初期作品はほとんど考慮されておらず、特にT字ステーを加工したフック一体型トリガー搭載機は暴発の嵐でした

マズルローディングで更に棒を使って突きこんで装填していたためとんでもない危険度で、自室の天井には暴発によって空いた穴が多数あります

長年の開発経験によって現在の私のスリングライフルには様々な安全対策を盛り込んでありますが、新作Model27ブラッククイーンではどのような対策をとっているのかを今回紹介していきます

 

トリガーを引いていないのに起こる暴発への対策

・1 フック形状

 

フックの弾受けが掛かる部分を上レールに貫通させることで弾受けがフックからすっぽ抜けることを防止しています

Model12レッドタロンはこの構造を採用していなかったため、コッキング直後、弾を装填する前にに暴発したことが一度だけありました

・2 フック起き上がり角

これは基本的なことなのですが、コッキング時のフックの起き上がり角度が90°以上になっていないと弾受けが滑ってフック上部からすっぽ抜けて暴発します

 

「1の構造を採用しているなら90°にしなくても暴発しないのでは?」と思われるかもしれませんが、長期使用でシアとの噛み合い部分が摩耗したり潰れてきたりでだんだん起き上がり角度が浅くなってくるので、安全マージンを確保するという意味でも90°以上の起き上がり角に調整するべきでしょう

1の構造と組み合わせることで多少摩耗したくらいではすっぽ抜けることはなくなります

・3機関部素材

1,2の対策を取っていても機関部の素材が軟弱ではすぐにパーツが摩耗したり曲がったり折れたり軸穴が拡がったりして暴発してしまいます

そのため、機関部は6mm厚の鉄板3枚重ね、可動パーツも6mm鉄板姓、可動軸は5mm径ステンレス製、機関部を取り付ける後部連結プレートも3.2mm厚の鉄板製で取付けピンは5mmステンレス

強度計算は出来ないのでしていませんが、これなら壊れることはないだろうという強度になっている(はず)です

 

・4 分解整備可能な機関部構造

フックとシアとの噛み合い部分はゴムの力が一点に集中する箇所なのでいくら分厚い鉄製でも長期使用で摩耗したり潰れてきたりが起きます

この損耗はフックの起き上がり角度の変化で外から推察することができますが、当然分解して直接目視確認、パーツ交換できるほうが良いです

私のライフルだとブラッククイーンに限らず全ての作品で機関部の完全分解が可能になっています

ブラッククイーンは各パーツの可動軸になっているステンレスピンを抜くことで分解できる構造です

・5マニュアルセーフティ

ブラッククイーンのマニュアルセーフティはオンにするとシアバーの動きを阻害する構造になっており、意図せずトリガーを引いてしまう暴発の他に落下の衝撃などでシアが慣性で動いてしまうタイプの暴発を防止できます

しかしフックの動きは阻害されていないため、シアとフックの噛み合わせが破損して起こるタイプの暴発は防ぐことができませんので、定期的な噛み合わせの目視確認が事故防止のために重要になります

・6自動給弾機構の構造

冒頭で触れた弾が装填された後にゴムが引ききれず手を離してしまった場合の対策として、自動給弾のスライド蓋はフックが完全に起きあがる位置で開ききって弾をレール内に押し上げる設計になっています

つまりコッキング完了と給弾を同期させているわけです

 

意図せずトリガーが動いて発生する暴発への対策

・1 トリガーガード

コッキング後にトリガーをぶつけたりして意図せずトリガーが動いてしまうことをかなりの確率で防止できます

ブラッククイーンでは幅広のトリガーガードを搭載しているので、幅の狭いタイプよりちょっとだけ安全性高いです

しかし当然ですが、いわゆる「指トリガー」をしていて起きてしまう暴発は防ぐことが出来ないので、射手は発射までトリガーに指を掛けないことを徹底的に意識付けなければいけません

暴発防止以外でも、ぶつけたりした場合のトリガーの変形防止対策にもなります

 

・2 マニュアルセーフティ

ブラッククイーンのマニュアルセーフティはオンにするとシアの動きを阻害するものですが、構造上トリガーも動かなくなります

しかしこれも過信し過ぎていると安全装置のかけ忘れ等の人為的なミスが起こる可能性があるため、やはり射手の「発砲するまでトリガーに指を掛けない」という意識付けが重要です

なんか凄いコンピューターを搭載しない限りトリガーを引いた意図をスリングライフル側が読み取ることは不可能ですから、そういう未来になるまでは人間側が気をつけていきましょう

 

万が一暴発が起きてしまった際の対策

・1 鐙形状と取付け位置

 

鐙の取付け位置は改良前のレッドタロンではフレームの側面、下側のヨーク根本でした

しかしこの位置で自動給弾機構搭載のスリングライフルが暴発すると足の甲に弾が直撃してしまうため、取付け位置をフレーム底面に移動させ、鐙を踏んでいる足をマズル上に持っていくことが不可能な形状となっております

・2 鐙コッキング方式+自動給弾による銃口管理

 

マズルローディングの場合、マズルを上向きにして弾込めするため、弾込め時に暴発するとどこに飛んでいくかわかりませんし、標的に向けるまでもマズルは色々な方向を向くためこれまたどこに飛んでいくかわかりません

 

また、鐙コッキング以前のバットプレートを腹に当ててコッキングする方式+自動給弾でもコッキングから標的に向けるまでに暴発が起きるとこれまたどこに飛んでいくかわかりません

鐙コッキングと自動給弾の組み合わせではコッキングから標的にマズルを向けるまでマズルは下側〜標的の方向を向いているため暴発が起きても地面に当たる可能性が高く、被害も少なくできるでしょう

しかし自動コッキングやポンプアクションやボルトアクションのようなマズルを的に向けたままコッキング・装填のできる機構よりは安全性低いです

 

 

コッキング中〜コッキング後に本体が破損してしまった際の対策

・1 ヨーク構造

コッキング後にヨークが折れてしまうとゴムに引かれて射手へヨークが飛んでくるため大変危険です

ブラッククイーンのヨークはM6のステンレス長ボルト2本をメイン構造体にしており、長期使用で曲がってきても作りが簡単なため最小限の加工ですぐ交換可能になってます

・2 フレーム構造

上下フレームの連結プレートは溶接や銀ロウ付けだと熱でフレームが曲がってしまうため、金属接着剤を用いて取り付けています

金属接着剤の信頼性は高いですが、万が一コッキング後に剥がれてしまうとこれまた剥がれた部品が射手へ飛んでくる可能性があります

これを防止するためフレームと連結プレートを貫通するように補強用のM5ボルトを通しており、構造上ボルトを通せない下フレーム後端はL字ステーを接着して補強しております

 

 

・3 鐙コッキング方式

バットプレートを腹に当ててコッキングを行う方式では、ストック形状と強度がよろしくないとストックがへし折れる可能があります

 

特にグリップ一体型のスタンダードなストック形状はグリップ部分から折れやすく、腹に当ててのコッキング中折れてしまうとゴムの力で本体が腹に突き刺さります

自分も4作目の試作段階でこれを経験しており、自分の場合はあまりゴムを引いてない状態で折れたので突き刺さるほどの勢いは無かったのですが、ゴムを引き切る直前で折れていたらと思うとゾッとします

そのため次作は折れ難い倍の厚みの木材を採用し、それでも不安だったため以後は鐙搭載までグリップ分割の直銃床やサムホールストックを採用していました

鐙コッキングならば体はライフルの斜め横にあるため、鐙が折れたり足が滑ったりした場合も勢い付いたライフルが体に当たる可能性は低くなりますし、コッキング時にストックには力が掛からないためストック・グリップ形状の自由度も高くなります

バックショットへの対策

・1 レール式

オープン式はバックショットと呼ばれる発射の際に弾がポウチから離れずゴムが反動で戻って来た際に射手へ向けて発射されてしまう現象が起こる可能性が少なからずつきまといます

カタパルトのような巨大スリングショットでスイカ発射した際の事故動画が有名ですよね

自分もオープン式スリングライフル製作時に一度だけバックショットが発生しました

発生は非常に低い確率ですが、やはり不安はありますし、万が一発生した場合射手が怪我する確率はかなり高いです

レール式は原理上バックショットが起こらないので、バックショットを絶対に起こしたくない場合はレール式を選択するのが良いです

 

 

最後に

ブラッククイーンにはこれらの安全性を高めるための対策が盛り込まれていますが、実銃のように落下試験や連続発砲試験をしているわけではありませんし、加工技術や設計技術も素人レベルでしかありませんので全く信用ならないということです

そして、実銃のように様々な安全性を確かめる試験を経て製造されたものですら年間に何件も暴発事故や銃の故障に起因する事故が発生しています

人間はミスを無くすことは出来ないからです

 

なのでスリングライフルでも、どれだけ設計に工夫を凝らしたとしても、どれだけ加工技術を高めても、危険性の高低はあれどゼロになることはありません

絶対安全なスリングライフルとはコッキングされていないスリングライフル以外にあり得ないわけです

 

標的を撃つとき以外コッキングしない

マズルを標的以外に向けない

発砲まで指をトリガーに掛けない

という人間側の意識付けが一番の安全対策になるのは実銃でもスリングライフルでも変わりありません

 

しかし設計者として、設計の不備が原因で起こる事故を無くす努力は絶対に怠ってはなりません

人間はミスを無くすことは出来ませんが設計の工夫次第で減らすことは出来ますし、本体側に原因があってはミスがなくても事故発生してしまいますからね

 

 

この記事が皆様の作るスリングライフルの安全性を高める一助となれば幸いです